書評:amazon 世界最先端の戦略がわかる


『amazon 世界最先端の戦略がわかる』

amazonという企業の全貌

2019年1月現在、amazonは世界の株式時価総額トップ、8400億ドルで1兆ドル企業に最も近いといわれています。
反面、その組織の中はGAFA(google / apple / facebook / amazon)と呼ばれる世界トップのIT企業の中でも謎に包まれています。

amazonについては近年さまざまな書籍や雑誌がその取り組みを紹介していますが、この本はそういった内容を網羅的に、また経済モデルから解説している点で、とてもわかりやすい構造になっています。

世界トップの投資がなぜできるのか?その秘密が「CCC」

amazonのはじまりは本の売買からはじまり、現在はマーケットプレイスによる小売り全般・アレクサによる音声デバイス・物流テクノロジー・クラウドコンピューティングなど、文字通り経済全般を飲み込もうとしています。

また、出遅れていたといわれる自動運転技術に関してもシリコンバレーのスタートアップに出資し、googleやテスラなどの新興企業に対して追随の姿勢を見せています。

米アマゾン、自動運転技術の新興企業オーロラに出資

2兆5000億円(2017年度)という世界屈指の研究開発費を投じて、営業利益率は2.3%におさえながらも、
株価は上場当時から2100倍。株主は配当ではなくCEOであるジェフ・ベゾス氏の壮大な夢に投資しているといえます。

日本一のトヨタが投じている研究開発費の25倍という規模で、amazonは日々様々なジャンルのテクノロジーを進化させているのです。

いくら株式が高騰していても、この投資はなかなか継続できるものではありません。

この本では、その秘密はCCC(Cash Conversion Cycle)だと解説しています。
CCC(=Cash Conversion Cycle:キャッシュ・コンバージョン・サイクル)とは、
企業が原材料や商品仕入などへ現金を投入してから最終的に現金化されるまでの日数をさします。
amazonは仕入れから現金化するまでの、このCCCがなんとマイナス34日。
これは商品を仕入れる34日前には資金が入っているという状態です。

この本の中で、キャッシュがすでに34日前には入っている理由として、「マーケットプレイス」の存在があるのではないかと解説しています。
「マーケットプレイス」は、amazon以外の業者が出品し、代金の回収をamazonが請け負い数%の報酬を差し引いて出品業者に報酬を振り込むという仕組です。物流を代行する「FBA(Fullfillment by amazon)も同様の流れです。
amazon自体が代金回収のプラットフォームになることで、キャッシュ回転効率を上げ、それを投資に回すことで、どの企業も追随できない進歩を続けているのです。

Amazon という企業の本当のビジョン

日本ではまだそこまでの普及度ではありませんが、全米では52%の世帯がアマゾン・プライムと契約。
富裕層においては固定電話よりもアマゾン・プライムが普及しているといわれています。
米国ではファッションにおいて最大の小売企業はすでにamazonであり、日本においてもプライベート・ブランドがシェアを伸ばしつつあります。

消費者ファーストを徹底しテクノロジーの粋を極め、小売業界全体をamazonが埋め尽くした時、私たちはそれでも「選別し、検討する賢い消費者」のままでいられるでしょうか。
私たちの「将来欲しくなるもの」すら予期するアレクサや、amazonのレコメンドに対して警戒心を維持することができるでしょうか。

私自身、ビジネスにおいてamazonを利用することが多く、その領域はマーケットプレイス・AWS・写真クラウド共有など多岐にわたっています。

しかし、ビジネスとしても個人としての利用であっても、一つの企業に依存することは危険度もあります。

これほどの圧倒的な成長規模で業界を席巻し、独占禁止法にかからないビジネス形態を保ちながら膨張を続ける企業は、これまでの経済史では類を見ません。(他の3社にも同様のことが言えます)

amazonの本当のビジョンは果たして消費者ファーストなのか、amazon経済圏の確立なのか、長い目で見て警戒しながら付き合っていく。
そのような「賢い消費者」であろうとする姿勢を持つことで、健全な消費者と企業の緊張を維持することも非常に大切なことだと感じます。フェアで公正な競争ができる経済界のために。