書評:京都が観光で滅びる日 – 日本を襲うオーバーツーリズムの脅威

「京都が観光で滅びる日」とは少々物騒ですが、この本におけるスペインやイタリアの事例を見てみると、京都市がまさにその始まりといってもいい状況になっていることがよくわかります。

京都への旅行客数はここ数年で年間5000万人を超えましたが、その中での増加はほぼインバウンドに集約され、なんと国内の旅行者はピーク時から比較して730万人減少しているというデータがあります。これを企業の売上として考えれば存亡の危機レベルといえます。
そんな中、本書では行政がインバウンドに向けた政策を強化し、ホテルや大企業を優先した景観条例の例外を乱発しているという状況が明らかにされています。

私自身も京都市に住んでいる身ですが、中心部における観光の優先度があまりに高く、ホテルや駐車場が乱立している状況はどうなのだろうかと感じています。 また、ここ5年間くらいでそのスピードがさらに増しており、国策とはいえ住民にとって魅力的なまちづくり、文化的なまちづくりの観点が後回しにされている危機感を覚えています。

著者である村山祥栄氏は京都市議会議員としての長い経験から、そういった地方行政の課題に向けてドラスティックながらも対案を出し、市民に新たな選択肢を提示しています。

行政、企業活動どちらにも共通して、昨今は短期的な利害を重視してしまう傾向が強くなっています。その中で先人が培った「国家100年の計」という考え方を、私たち一市民が思い出す必要があるのではないでしょうか。

ブランディング実践セミナー開催(東京)

東京でブランディングに関する実践セミナー「【中小企業経営者向け】ブランディングの一歩を踏み出す 体験型セミナー」をさせていただくことになりました。

ブランディングを進めるためには、社長・幹部を含めた意思統一と具体的な指針が必要です。その指針を定めるために当社が行っているのが約15時間の「ブランド戦略検討会」です。今回は、「伝説の15時間」と言われ、顧客満足度95%以上のこの検討会の一部を実際に体験していただきます。
ブランディングプロセスを実体験していただくことで、具体的なノウハウをお持ち帰りいただけるものと思います。

詳しくはシュンビン Webサイトをご覧ください。

ブランディング&Web活用セミナー開催(新大阪)

新大阪でWeb活用に関するセミナー「ブランディングで効果絶大!どんどんリピーターを生むweb活用セミナー」をさせていただくことになりました。

ブランディングで効果絶大!どんどんリピーターを生むweb活用セミナー

ブランディングに取り組むことで、中小企業でも大きな効果を生み出すことができる。
そんな事例を中心に、ブランドとWebの基本的な考え方などをご紹介させていただきます。

詳しくはシュンビン Webサイトをご覧ください。

書評:amazon 世界最先端の戦略がわかる


『amazon 世界最先端の戦略がわかる』

amazonという企業の全貌

2019年1月現在、amazonは世界の株式時価総額トップ、8400億ドルで1兆ドル企業に最も近いといわれています。
反面、その組織の中はGAFA(google / apple / facebook / amazon)と呼ばれる世界トップのIT企業の中でも謎に包まれています。

amazonについては近年さまざまな書籍や雑誌がその取り組みを紹介していますが、この本はそういった内容を網羅的に、また経済モデルから解説している点で、とてもわかりやすい構造になっています。

世界トップの投資がなぜできるのか?その秘密が「CCC」

amazonのはじまりは本の売買からはじまり、現在はマーケットプレイスによる小売り全般・アレクサによる音声デバイス・物流テクノロジー・クラウドコンピューティングなど、文字通り経済全般を飲み込もうとしています。

また、出遅れていたといわれる自動運転技術に関してもシリコンバレーのスタートアップに出資し、googleやテスラなどの新興企業に対して追随の姿勢を見せています。

米アマゾン、自動運転技術の新興企業オーロラに出資

2兆5000億円(2017年度)という世界屈指の研究開発費を投じて、営業利益率は2.3%におさえながらも、
株価は上場当時から2100倍。株主は配当ではなくCEOであるジェフ・ベゾス氏の壮大な夢に投資しているといえます。

日本一のトヨタが投じている研究開発費の25倍という規模で、amazonは日々様々なジャンルのテクノロジーを進化させているのです。

いくら株式が高騰していても、この投資はなかなか継続できるものではありません。

この本では、その秘密はCCC(Cash Conversion Cycle)だと解説しています。
CCC(=Cash Conversion Cycle:キャッシュ・コンバージョン・サイクル)とは、
企業が原材料や商品仕入などへ現金を投入してから最終的に現金化されるまでの日数をさします。
amazonは仕入れから現金化するまでの、このCCCがなんとマイナス34日。
これは商品を仕入れる34日前には資金が入っているという状態です。

この本の中で、キャッシュがすでに34日前には入っている理由として、「マーケットプレイス」の存在があるのではないかと解説しています。
「マーケットプレイス」は、amazon以外の業者が出品し、代金の回収をamazonが請け負い数%の報酬を差し引いて出品業者に報酬を振り込むという仕組です。物流を代行する「FBA(Fullfillment by amazon)も同様の流れです。
amazon自体が代金回収のプラットフォームになることで、キャッシュ回転効率を上げ、それを投資に回すことで、どの企業も追随できない進歩を続けているのです。

Amazon という企業の本当のビジョン

日本ではまだそこまでの普及度ではありませんが、全米では52%の世帯がアマゾン・プライムと契約。
富裕層においては固定電話よりもアマゾン・プライムが普及しているといわれています。
米国ではファッションにおいて最大の小売企業はすでにamazonであり、日本においてもプライベート・ブランドがシェアを伸ばしつつあります。

消費者ファーストを徹底しテクノロジーの粋を極め、小売業界全体をamazonが埋め尽くした時、私たちはそれでも「選別し、検討する賢い消費者」のままでいられるでしょうか。
私たちの「将来欲しくなるもの」すら予期するアレクサや、amazonのレコメンドに対して警戒心を維持することができるでしょうか。

私自身、ビジネスにおいてamazonを利用することが多く、その領域はマーケットプレイス・AWS・写真クラウド共有など多岐にわたっています。

しかし、ビジネスとしても個人としての利用であっても、一つの企業に依存することは危険度もあります。

これほどの圧倒的な成長規模で業界を席巻し、独占禁止法にかからないビジネス形態を保ちながら膨張を続ける企業は、これまでの経済史では類を見ません。(他の3社にも同様のことが言えます)

amazonの本当のビジョンは果たして消費者ファーストなのか、amazon経済圏の確立なのか、長い目で見て警戒しながら付き合っていく。
そのような「賢い消費者」であろうとする姿勢を持つことで、健全な消費者と企業の緊張を維持することも非常に大切なことだと感じます。フェアで公正な競争ができる経済界のために。

書評:NLPの実践手法がわかる本


『NLPの実践手法がわかる本』

NLPとは何か?

NLPという言葉を聞いたことがない人もいることでしょう。
NLPとは「神経言語プログラミング」というもので、1970年代にアメリカで生まれた、言語学と心理学を組み合わせた実践手法です。

NLPはNeuro(神経) Linguistic(言語) Programming(プログラム)の略で、「神経」とは「五感」を表し、「五感」は体験が作り出すものとして定義します。

たとえばハンバーグを食べるという体験には「味」「におい」、焼けるときのにおいなどの感覚(五感)が伴うことでしょう。

NLPでは、人間は五感を通じて体験し、それを言語化することによって意味づけをし、行動を仕組化(プログラム化)すると考えます。

NLPが目指すもの

それでは、NLPは何を目指すものでしょうか。
NLPにおいては、人間は五感を通じて行動を仕組化(プログラム化)するということでした。私たちが、その行動の仕組みや反応を意識していなかったら、いったいどうなるでしょうか?

私たちの中には、建設的な影響を与える感覚・反応と、破壊的な影響を与える感覚・反応があります。
しかし、どちらについてもすべてを意識的にできているかといえば、そうではないと思います。

自分がなぜこのような行動をしているのか、わからないことはありませんか?
たとえば仕事でも、後から考えるとどうしてこんなことを疎かにしたんだろう、というトラブルがあります。
プライベートの日常でも、余計な一言や行動で、人を不快にさせることもあるでしょう。
ダイエット、禁酒、禁煙、生活習慣。
理屈ではわかっていても、なぜか続かない。そんな人も多いことと思います。

プログラムの特徴は、「刺激に対して反応する」ということです。

NLPが目指すものは、こういった人が普段意識していない五感と言語を意識化することで、脳内の破壊的なプログラムを排除し、よりよいコミュニケーションや人生を実現することなのです。

この本で得られるもの

「NLPの実践手法がわかる本」は、実践編ではありますが序盤にかなりNLPの概念的な説明がありますので、これ一冊でも基本的な理解が深まります。
ただし、中身は相応に濃いため、一読して理解できるというものでもない印象です。

その中でも実践手法の中で重要なスキルとなる「アソシエイト」と「ディソシエイト」については反芻・実践が必要だと感じました。

1)アソシエイト
自分の体験をまさに自分事として、身体全体で深く体験すること。
→好ましいプログラムを作るときに重要になる

2)ディソシエイト
自分の体験をまるで他人事のように観察すること。
→否定的なプログラムを解除するときに重要になる

NLPではこの2つの概念を行き来することで、自分の中の無意識を意識化し、変革していきます。とくに後半はかなり高度な内容になりますので、しっかりと時間を取って復習・実践をした方がよいかもしれません。

私個人としてはまず概念的な理解をしたかったため、後半の実践はそれ程できていませんが、内容には十分満足できました。

なりたい自分になる、ということ

NLPが目指すものは究極的に言えば「なりたい自分になる」ということです。
これだけをとると体のよい自己啓発ツールのように思われますが、NLPの場合は「五感」を意識的にデザインする手法の面で、とてもロジカルで実践的な印象を受けました。

人間は意志の生き物であるとはよく言われますが、実はその意志が自分にとって本質的なものか?ということはあまり理解できていません私たち自身、本当に欲しいものは理解できていないのです。

最初の例でいえば、私たちはハンバーグそのものが欲しいのではなく、「おいしい」「暖かい」「楽しい」といった感覚と、それに付随したイメージを欲しているということなのです。

NLPにより深層心理を意識化し、これらの感覚と未来に向けた意志が統一されることで、よりよい自己実現を生み出す。
このことが「なりたい自分になる」ということではないでしょうか。

とても読みがいがある本ですので、手に取るときは相応の意志が必要ですが、私のようにまず理解したい!という人にもおススメです。

書評:JALの奇跡 (稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの)


『JALの奇跡 (稲盛和夫の善き思いがもたらしたもの) 』

事業会社としては戦後最大、二兆三千億円の負債を抱えて2010年に倒産したJALは、倒産後京セラ名誉会長の稲盛さんが会長として再建に携わり、現在営業利益率10%以上を誇る高収益企業として生まれ変わりました。
これは負債額よりもむしろその奇跡的な復活劇の方が歴史的な出来事です。
あまりにも早く再建したためか、むしろ若い世代では倒産した事実さえ知らない方もいるようです。

そのJALが、奇跡的復活をわずか1年で遂げ、かつその好業績を今も続けているのはなぜなのか。

この本には、そんな倒産直後から復活までの道のりが、外部から招へいされた著者の視点で描かれています。
著者は日本航空元会長補佐として、外部から会長として乗り込んだ稲盛和夫さんのサポート役を務められた方です。

稲盛和夫さんは言わずと知れた歴史的名経営者で、全世界1万3000人以上の塾生がいる中小企業のための経営塾「盛和塾」を主宰されていることでも知られています。

外部からのコンサルティングなどは一切なく、あくまで内部の改革で成し遂げた奇跡の秘密は、
「ハードではなく人の意識を変える」ということ。そのドラマが生々しく描かれており、読んでいるとその迫力には鳥肌が立つものがあります。

武器として持っていたのは「フィロソフィ」と「アメーバ経営」

「1年で再建したということは、何か特別な優遇があったのではないか?」
これは今でもよく聞かれるということですが、驚くべきことに稲盛さんは専門のコンサルティング会社を断り、「人として何が正しいか」という考え方や熱意=フィロソフィと、アメーバ経営という経営システムの2つをベースとして再建しました。

フィロソフィとは、一般的には哲学という意味ですが、この場合「人としてどう生きるか」を共有できる価値観としてまとめた独特の意味があります。もともとは稲盛さんが研究開発をする中で、心のありようで研究結果が変わることに気づき、それをノートの端などにまとめたものがオリジナルのようです。

アメーバ経営とは、全員参加経営を実現するための会計システムです。組織をできるだけ小さく分け、運営を各部門のリーダーに任せ、その経営数字をオープンにリアルタイムに把握します。
部門ごとに採算表をまとめることで、どの部署が黒字だったのか、どういった経費を使ったのかがすべて把握でき、京セラ成長の原動力になったシステムといわれています。

専門的な知識がない中で、今いる社員の可能性を信じ、見えない部分である考え方や熱意を意識改革し、それを最大限発揮するための経営システムを導入する。
一見するとそれだけで再建が叶うのか信じがたいことですが、この本の中のさまざまなエピソードを読むと、その可能性が実感できます。

意識改革のための、強い意志

著者は意識改革をするために、まずリーダーを育成することが最優先だと判断しました。
当時JALには民間企業を経営しているという意識の幹部はいなかったようですが、リーダーとしての意識を徹底して伝えればわかってくれるはず。
そのためにたった5名の意識改革準備室を開設、土曜日を含めて1か月に16回のリーダー教育を断行。
強引ともいえるスケジュールを進め、終了後には必ず意見交換会(コンパ)を行うという徹底ぶりで、幹部間の一体意識を高めました。
当初は反発も大きかったようですが、進めていく中で意識が大きく変わり、最後の合宿ではエリート社員が朝四時ごろまで熱い議論を交わすようになりました。
本気で進めること、意志を貫徹することの重要性をとても強く感じるエピソードです。
JAL再建の2010年から2011年は民主党政権での混乱、東日本大震災、日中関係の悪化などさまざまな変動があった時期でもあります。
その時であっても、意識改革のプログラムは決してスケジュールを遅らせることなく、進めていったそうです。

部下を同じ目標に向けて引っ張っていくのがリーダー

企業経営でもっとも大切なのはリーダーで、それも能力ではなく人間性が素晴らしいことが重要。

「お前は何を基準に人を見るのだ」と稲盛さんに聞かれた際、著者は
「JALが一番好きで、まじめで一生懸命で、しかも明るい人がリーダーに相応しいと思っています」と答えています。

また、リーダーとマネージャーの違いについても触れています。

「部下を管理するマネジメントについては、あなたたちはよくわかっているし、優秀かもしれない。しかし、今JALに必要なのは部下をまとめて同じ目標に向けて引っ張っていけるリーダーを育てることなんだ。優秀なマネージャーであれば、困難に遭遇すればその迂回策を考えるだろう。うまくいかなかったら、言い訳を探して、責任逃れをするだろう。そんなマネージャーばかりだから倒産したんだ。再建を成功させるには、どんな困難にぶち当たってもあきらめずにやり遂げようとする、一つの目標に向かって部下を鼓舞してなんとかまとめていこうと考える、そんなリーダーが必要なんだ」

稀代のリーダー、稲盛和夫さん

78歳という高齢でJALの債権を引き受けた稲盛さんは、当初週3日~4日の出勤という話でしたが、それどころではなく土曜日も出勤することが多くなったそうです。そのような中でも時間を見つけて現場訪問を行ったり、全社員に向けて手紙を出すなど、常に現場に向ける愛情の目を忘れなかったようです。

また、路線の大幅な縮小に伴ってパイロットの業務ができずに地上勤務になった孫くらい年が離れた社員が、稲盛さんに不満を訴えると
「馬鹿かお前は。JALの経営状況がどうなっているかわかっているだろう。」
と真正面から激論を繰り広げるなど、まさに同じ目標に向かって一体になることを目指すリーダー像が描かれています。

この改革に、汎用性があるか

稀代のリーダーとフィロソフィ、そして数字で人間の可能性を追求するアメーバ経営。
これらが合わさって奇跡の復活を遂げたJAL。このストーリーに汎用性はあるのでしょうか。

私はあると考えています。JALほどの規模は難しいかもしれませんが、人間の願望と可能性は無限です。

幹部と現場の意識が乖離し、ひとつの目標に向かってベクトルがあっていない。
経営者の想いを社員が理解できていない。
経営者が社員を信じることができない。

そのような中小企業は残念ながら多くあります。
JALの歴史的な事例が証明するのは、すべてを貫徹する意志と集中力を持てば、どのような状況であっても1年で意識と経営を変革できるということです。

今、働き方改革といわれる中で、仕事の時間は減りつつありますし、今後も減っていくでしょう。

この本の中で描かれている様々なエピソードは、その中でも仕事を通じて人間性を高め、考え方を磨いていくことの大切さを私たちに教えてくれる、歴史的な財産ではないかと思います。

書評:まんがでわかるデザイン思考


『まんがでわかるデザイン思考』

「まんがでわかる」シリーズは個人的にはそれ程手に取って読むことはありませんが、今回はたまたま会社にあったので読んでみました。

結論から言えば「自分がまったく知らないことについて、とにかく早く概要を知りたい。でもWikipediaでは活用イメージがわかない。早く活用したい。」というわがままな企業人にまんがはピッタリです。
逆に、多少でも自分で理解しているテーマであれば、まんがであえて読む必要はないかもしれません。

■「デザイン思考」とはなにか
「デザイン思考」とひとくちに言っても、具体的にはどんなことなのかをイメージしにくい方もいるかもしれません。
ひとことで表現すれば、「デザイン思考とは(破壊的)イノベーションを生み出すための発想から具体化のプロセス」ということができます。

それでは、イノベーションとはどういう意味でしょう。
イノベーションは、「新しいアイデアの実施を通じて、これまでにない価値を創造するということ」だと定義できます。

今常識だと思っていることは、過去には常識ではなかったはずです。どこかで誰かが、その常識を新たに作った。それがイノベーションです。

たとえば、ペットボトルのお茶や水。昔は誰も買う人はいませんでした。AppleのiPhoneなどはイノベーションの代表格ですね。それまでスマートフォンの時代が来るといわれながらまったく普及しませんでしたが、iPhoneの登場により一気にスマホシフトが進みました。

デザイン思考は、そんな一部の人でしか起こせないと考えられているイノベーションを起こすための汎用的な発想・具体化法そのものなのです。

 

■デザイン思考のプロセス
デザイン思考のプロセスは、大きく3つあります。

1)着想
・課題を解決するための問題や機会、潜在的ニーズの発見

2)発案
・アイデアを具体的に発案し、実現性を検証する

3)実現
・アイデアをプロトタイピング(試作)し、市場へと導く

デザイン思考にも大きく3種類くらいの流派があるようで、具体的なプロセスはそれぞれ異なるようです。

しかし、全体を貫いている大きな特徴としては「重要なのは技術ではなく、人間に注目し、潜在的なニーズを見つけ満たすこと」という考え方に立脚している点です。

iPhoneは新しい技術ではなく、あくまで既存の技術の組み合わせ。
ペットボトルのお茶や水も、どちらも既存のものですでに市場にあったものでしょう。
「すべての常識をゼロベースで考え、人間が本当に望んでいるものを考えていく」
デザイン思考は人間そのものを探求するプロセスでもあるのです。

■デザイン思考をどう活かす?
それでは、このデザイン思考はどのように仕事や企画に活かしていけばよいのでしょうか?

いちばんわかりやすいのは新商品開発です。既存の市場に対して新しい価値を提供するのですから、考えやすく成果にもつながりやすいと思われます。

もうひとつ、可能性があると考えられるのは、既存事業の見直しです。これはデザイン思考のプロセスでもとても大切な「課題・テーマの設定」によりますが、歴史のある企業ほど、やり方によっては成果があがりそうです。

デザイン思考は、今の世界は必ずもっとよくできるという立場に立脚します。
例え300年続いている事業であってもイノベーションの余地はあるわけです。
私たちのお客様でも、ずっと続いているが毎年同じことをしていて、少しずつ業績が下がっている、そんなケースが多くあります。
そんな業界の常識を破壊し、まったく新しい発想を生み出していくために、デザイン思考は大きな役割を果たすのではないでしょうか。

私たちの会社でもデザイン思考によるワークショップを行った際は、さまざまなイノベーティブなアイデアが出ました。

実際の現場へ行って顧客として製品やサービスを体験し、同じような人々を観察する「オブザベーション」。何気ない人の動作から、多くの気づきを得ることができます。

紙や粘土を使って、すばやく手を動かしながらビジネスを試作する「プロトタイピング」のプロセスは非常に新鮮で楽しいものです。

そんなデザイン思考のプロセスを進めていくと、大切なのはビジネスモデルやシステムだけではなく「楽しい・うれしい・不満だ」といった、人の感情であることにあらためて気づかされるのです。

デザイン思考というプロセスが普及することで、日本全体のビジネスにもよい変化が生まれるよう、期待しています。


顧客とひとりとなって体験しながら人を観察するオブザベーション


手を動かしながらビジネスを設計するプロトタイピング(施策)

私自身、知識も実践もあくまで鳥羽口に立ったばかりですので、これからも「人間の経験をデザインする」デザイン思考の探求を続けていきます。

書評:意識はいつ生まれるのか – 脳の謎に挑む統合情報理論


『意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論』

「意識とは何か。どこで生まれるのか」
これは生物もしくは脳を考えるうえで、大きな謎です。そもそもその定義すら曖昧です。

医学的にも、この問い自体は何も生み出さず、経済的な発展性もない(新薬の開発などビジネス的妙味がない)ため、研究すらあまり進んでいないということを、養老孟司さんの本で読んだことがあります。

なぜ脳はなんなく光と闇を見分け得る主体を生み出すことができるのか。
この本は、ロジカルでありながら感覚的でもあり、全体の構成はいくつかのアプローチをらせん状にとりながら、本質に向かっていく形をとっています。

『意識を生み出す基盤は、おびただしい数の異なる状態を区別できる、統合された存在である。
つまり、ある身体システムが情報を統合できるなら、そのシステムには意識がある。』

統合情報理論では、意識をこのように定義します。
そして、意識がいったいどこで生まれているのかを探索していきます。

この本を読み終えたとき、定義への理解が深まると同時に、この意識を生んでいるものが、ひとつは人の大脳であり、他の動物にもあるかもしれない、ということがわかります。
反面、他の主体には存在しないということも理解ができます。広大な宇宙やAI、ロボット、ブラックホールでさえも、意識を持ちえないことがわかります。

もちろん、この本の内容で脳と意識の全てが解決されるわけではありません。ここで書かれていることは探索のアプローチであり、新たな研究が生まれてくる可能性も多くあります。
それでも現時点で、意識に関する非常に多くの示唆を与えてくれることは間違いありません。
意識とは内側に存在する広く偉大な宇宙であり、私たちには何ものにも代えられない大きな可能性があるということが、理論と感覚でより深く理解できることでしょう。
人間の特性について興味のある方にはぜひ読んでいただきたい本です。

7.ブランディングのメリット

これまで説明してきたブランディングについて、企業から見てどのようなメリットがあるのか、インナーブランディングの観点を含めてご紹介します。
 
さて、ここで質問。

たとえばあなたが最寄りのスーパーで「ごま油」を買おうと思った時、どれ位の時間で決めているでしょうか。
 
即断即決の人もいれば、ごま油にはかなりこだわりがあって悩むという人もいるでしょう。
 
実際に購入に至るまでの時間は人それぞれですが、認知として人は購買の判断そのものは数秒でしていると言われています。
 
ブランディングのもっとも大きなメリットは「差別化により選ばれやすくなること」です。
 

1.競合商品・サービスとの差別化

また、ブランドに力を入れている企業の代表格であるアップルの「iPhone」は、サムスンやLGなど他のスマートフォンメーカーの製品と比較して価格が高いことでも有名です。
そんな中、日本におけるiPhoneのシェアはなんと70%。これもブランディングのなせる業です。
 
「たしかに安いけれど、なんとなく韓国や台湾メーカーのスマホは不安だな…」
という人は多いのではないでしょうか?
 
2.付加価値の向上と価格決定権
 
ブランディングをすることにより、安心感・信頼感を持っていただくことができます。
結果として、消費者に納得してもらえるもっとも高い価格での販売を実現できるのです。
 
3.法的保護

一見目立たないメリットですが、これもとても大切です。
ブランドとして確立すれば、登録商標、著作権など各種法的保護を受けることができます。
 
 
さて、ここまでは対消費者に向けたブランディングのメリットをお伝えしました。
 
前回お話しした通り、ブランディングとは企業の「こう思われたい」と消費者の「こう思う」を一致させる活動でしたね。
 
これらの「こう思われたい」を伝えるのはあくまでも企業の社員です。
 
今はSNSが浸透し、会社の内部がこれまでよりもとても良く見える時代。
ブランディングにより得られる、社内向けのメリットも大きなポイントになるのです。
 
4.社内の意思統一と社員モチベーションの向上

より差別化されたブランディングは、自社内も変えていきます。「どう思われたいか」を明確にすることにより、社内での一体感を高めることができるのです。
 
自社がブランド価値を発信することにより、その価値に共感する人たちも集まりやすくなるため、以下のメリットも生まれてきます。
 
5.採用活動の効率化
 
私は大企業だけではなく、中小企業にこそブランディングが必要だと考えています。
日本における法人の98%を占め、経済を底支えする中小企業がブランディングをすることにより、新しい価値に共感する人々が大企業にはない生きがいや働き甲斐を見出すことができるのではないでしょうか。
 
以上、消費者向けと社内向けに分けてブランディングのメリットをご説明しました。
この他にも販促予算の削減や、Web広告における指名買いの増加など、さまざまなメリットがあります。
 
単なるデザインやイメージの統一ではない、より深いブランディングの必要性を感じていただけましたでしょうか?
 


<まとめ>
■ブランディングのメリットは対消費者、対社内の2方向がある
■ブランディングにより消費者から選ばれやすくなる、価格決定権が得られるなどのメリットがある
■社内向けには意識の統一や採用活動の効率化という効果が得られる

6.消費者にとってのブランディング

今回は、「ブランディングとは何か?」を消費者の視点からご紹介します。

繰り返しになりますが、消費者にとってブランドとは「識別」されている状態を指します。

ブランディングとは、消費者にどのように「識別」してもらうかを、企業が明確に定義すること。

明確に定義してもらうための「旗」が前回お話ししたブランド・アイデンティティです。
企業側が「どう思って欲しいか」がその中には端的に含まれていなければなりません。

それに対して、消費者が企業を「どう思うか」を「ブランド・イメージ」といいます。

ブランド・イメージは、消費者・顧客のココロ(心象)の中で生まれるということがポイントです。

たとえば「ユニクロ」を思い浮かべるとき、どのような印象が浮かびますでしょうか?
カジュアルファッションや家族のイメージ、またはグローバル企業として先進的な印象もあるかもしれません。

これらのイメージは、ユニクロというブランドが提供する機能的・非機能的要因を私たちが受けることで、形作られています。

ブランディングは、一言で表現してしまえば、企業の「こう思われたい」(ブランド・アイデンティティ)と、消費者の「こう思う」(ブランド・イメージ)を一致させる活動なのです。

そして、そのために第2回の時に触れた「刺激の設計」がとても大切になってきます。

<まとめ>
■消費者が企業のことを「どう思うか」を「ブランド・イメージ」という
■ブランド・イメージはココロの中で形作られる
■ブランディングとは企業の「こう思われたい」と消費者の「こう思う」を一致させる活動

次回は一体ブランディングをすることによってどういうメリットがあるのか?を具体的にご紹介します。